海洋音響学会表彰規程に基づき2026年度(令和8年度)の表彰選考が行われ,以下の1~3の各賞の受賞者が決定された.表彰式は2026年5月18日に対面およびオンラインによるハイブリッド形式で開催された.
1. 顕功賞
顕功賞は,本会表彰規程に基づき,我が国の海洋音響技術の歴史に顕著な業績を残した方を選考し,表彰状楯を贈呈した.
■ 蜂屋 弘之氏
蜂屋 弘之氏は,長年に亘って超音波映像法,音響信号処理,音響トモグラフィ,音波伝搬数値計算等の幅広い研究領域において多数の研究成果を挙げられました.また本学会運営においては,理事をはじめとして,副会長,会長の要職を歴任され,本学会の発展にも多大のご尽力を頂きました.さらに,本学会の名誉会員に就任後も,学会行事にも積極的に参加され,後進の指導・育成にも熱心に取り組まれておられます.
このように遠藤氏の学術ならびに本学会に対する多年の活動業績は極めて顕著であり,我が国の海洋音響技術の発展に大きな功績を挙げられた.
2. 2025年度(令和7年度)論文賞
論文賞は,本会表彰規程に基づき,2023年10月から2025年9月までに発表された論文のうちから,海洋音響技術に関する優秀論文2編を選考して,表彰及び賞金を贈呈した.
■ 海面散乱音場の積分表現とフレネルゾーンの振舞
大川 圭一 艦艇装備研究所
注)受賞者は,本学会表彰規定第14,17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定また,受賞者の所属は論文掲載時の所属
海洋音響学会誌, Vol.51, No.3, pp.45-59, 2024年7月
本論文は粗い海面からの散乱音場の振舞に関する研究を報告するものであり,まず海面散乱音場を表現するために,ステップ関数を用いて海面を離散化した.次に, ステップ関数を用いて離散化した各海面からの散乱音場を波数積分し,海面散乱音場を表現した.ここで海面散乱強度は,各海面における反射は鏡面反射に従うものとし反射係数は-1として計算した.このような単純な海面散乱強度の設定にもかかわらず,計算された表面粗さによる反射係数はレイリーパラメータが3以下の場合の理論値とよく一致しているだけでなく,散乱波の振幅の統計的特性Nakagami-ライス分布に従うことが示された.よって,海面散乱音場の振舞を表現するアプローチはうまく機能しており,海面のランダムな変位が音波信号のランダムな位相を作り出すことができると結論付けた.更に,コヒーレント要素が第1フレネルゾーンによる影響であることも明らかにすることができ,本論文で述べた海面からの散乱音場のモデル化と検証により,コヒーレント散乱成分/非コヒーレント散乱成分の本質について明らかにした.
これら取組は,海面を簡略モデル化したところにオリジナリティを有するものであり,基本原理に立ち戻って検証した結果が示された点において技術資料として有益でありかつ,今後の散乱音場のモデル化の観点で海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.
■ Multiple-input–Multiple-output Underwater Acoustic Communication with an Orthogonal Signal Division Multiplexing Using Basis Pursuit Denoising
石島 諒一 筑波大学
海老原 格 筑波大学
若槻 尚斗 筑波大学
前田 祐佳 筑波大学
水谷 孝一 筑波大学
注)受賞者は,本学会表彰規定第14,17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定
また,受賞者の所属は論文掲載時の所属
海洋音響学会誌, Vol51, No.4, pp.96-116, 2024年12月
水中音響(UWA)通信は,海洋調査やインフラ点検を無線通信で実現できる技術である.本稿では,MIMO(多入力多出力)シグナリング,OSDM(直交信号分割多重化),BPDN(基底追求ノイズ除去)を組み合わせたUWA通信方式を提案し,UWAチャネルのスパース性を活用し,より信頼性の高い通信を実現する.BPDNを用いたMIMO-OSDMの実現可能性は,レイトレーシングを用いた音響伝搬シミュレーションを用いて検証した.さらに,2台のモバイル送信機と4台の固定受信機を用いた海上試験を実施し,同等のデータ伝送速度における従来のOSDM方式と比較して,提案システムの復調性能を評価した.実験結果によると,提案されたMIMO-OSDMフレームワークは,BPDNと組み合わせることで,MIMO-OSDM構成で最小二乗法(LS)を用いたものや,SIMO-OSDM(単入力多出力OSDM)設定でBPDNを用いたものなど,既存の手法よりもビット誤り率(BER)の点で優れていることがわかった.結論として,BPDNを用いたMIMO-OSDMは,同一データレートにおいて,BPDNを用いたSIMO-OSDMとLSを用いたMIMO-OSDMのどちらよりも優れた性能を発揮する.提案手法は,海洋調査やインフラ点検を支援する実用的なソリューションとなることが期待されるものである.
これらのことから,筆者等の提案手法は,従来のOSDM方式を発展させた方式について,様々な運用や環境下での応用も期待できることから,今後の水中における通信手法への寄与するところ大として,海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.
3. 2025年度(令和7年度)業績賞
業績賞は,本会表彰規程に基づき,本会賛助会員である企業の技術者または技術者のグループが達成した海洋音響技術に関する優秀な技術開発業績を選考し,その貢献企業及び貢献者に表彰盾,表彰状を贈呈した.
■ 小型鯨類の自動音響観測装置の開発
村元 宏行 株式会社MMT
海洋の最高次捕食者である小型鯨類(イルカ類)は海洋生態系の指標生物として重要である.その多くは個体数が減少し,絶滅が危惧されている種や個体群も多い.このため,小型鯨類の簡便かつ定量的な観測装置求められていた.これまで,小型鯨類の観測には多くの人手と時間がかかり,とくに夜間の観察は難しかった.2005年の調査で小型鯨類が頻繁に生物ソナーを使用していると判明し,その超音波を受信することで動物の存在や行動や個体数がわかれば,保全だけでなく海洋環境アセスメントにも重要なツールとなると考えた.
㈱MMTは,こうした目論見のもと,超小型の超音波パルスイベント受信記録装置(A-tag)を開発した.A-tagは2つの水中マイクロホンを装備し,超音波領域に設定したバンドパスフィルタを介したパルス強度と到達時間差を計測し記録する.小さなメモリサイズで高速かつ長期間のデータ保存が可能なこと,音源すなわち発音動物の方向も記録できることが本機の特徴である.A-tagは単一電池二本で一か月の運用が可能である.防水ケースに収められ,すべて自動で生物ソナー音のイベントと時刻を記録する.電源供給やメンテナンスが不要で,海中だけでなく密林や大河川などの環境でも少人数または一人で運用できる.動物装着型,曳航型,設置型と様々な観察需要に対応している.
これらのことから,本技術は基礎生物学から社会応用まで広く用いられる技術として利用されており,本学会が目指す海洋音響技術の発展に大きく寄与するものである.
■ 高耐性水中音響通信システムの実証
白銀 和浩 JMUディフェンスシステムズ株式会社
齋藤 隆 株式会社多摩川電子
吉澤 真吾 北見工業大学
水中無人艇(USV)や自律型無人潜水機(UUV)の無線ネットワークで遠隔管制する技術において深海域や浅海域などのあらゆる場所での長距離無線通信を実現するためには,ドップラーシフト,ドップラーシフト変動,マルチパス,背景雑音(広帯域雑音・インパルス性雑音)などの様々な妨害要因に耐えうる水中音響通信方式の確立が不可欠である.従来の水中音響方式は上記の妨害要因が複合すると通信性能が大幅に低下することが課題となっていた.申請者らは,上記課題を解決するために上記の妨害要因が複合した条件下でも通信可能な新しい通信システムを考案し,通信実験により実証した.提案システムの優れた点は下記の通りとなる.
①大きなドップラーシフトやドップラーシフト変動に強く,世界トップクラスとなる相対速度30ノットでの水中音響通信に成功した.
②加速度が伴う相対移動速度が不規則となる条件において既存モデムで採用されている従来システムよりも優れた通信性能を示した.
③音波反射が非常に多い水槽環境でかつドップラーシフト変動がある条件(相対速度15ノット,加速度0.5m/s2)でも通信可(ビット誤り率10-4未満)となることを実証した.
以上の事から,この技術により水中無人機を運用する場面において,高耐性な無人機間の通信が実現でき,今後の無人機運用の実現へ大きく貢献するものである.
4. 海洋音響学会2025年度研究発表会優秀論文発表賞
(日本海洋工学会JAMSTEC中西賞受賞)
本論文は本学会執行理事会の承認を得た後,JAMSTEC中西賞候補として日本海洋工学会に推薦された.日本海洋工学会理事会は本論文をJAMSTEC中西賞論文として認定している.受賞講演は2026年1月16日に第55回海洋工学パネルと合わせて実施された.
■ Enhancing the naturalness and robust detection of bio-mimic localization signals in coastal noise environment
Ravega Rullianov Ruben 防衛大学校
黒山 喬允 防衛大学校
小笠原 英子 防衛大学校
森 和義 防衛大学校
海洋音響学会2025年度 研究発表会 講演論文集,pp.17-20
5. 海洋音響学会2026年度研究発表会優秀論文発表賞およびベストポスター賞
優秀論文発表賞およびベストポスター賞は,2026年度(令和8年度)研究発表会講演論文を対象として,35歳以下の優秀な発表を選考し,表彰するとともに賞金を贈呈した.
5.1優秀論文発表賞
■ 変分法を用いた固有音線経路計算による実海域音波伝搬シミュレーション
土屋 充志 筑波大学
海洋音響学会2026年度 研究発表会 講演論文集,pp.65-68
■ 極浅海域における水中通信路のインパルス応答の時間変動と音速分布の関係に関する基礎的検討
小野 皓大 筑波大学
海洋音響学会2026年度 研究発表会 講演論文集,pp.79-82
5.2ベストポスター賞
■ 活スルメイカの音響散乱特性の検討
閻 乃箏 北海道大学
海洋音響学会2026年度 研究発表会 講演論文集,pp.31-32
■ 造波水槽による水面の周期変動が通信路のインパルス応答とドップラー特性に与える影響の解析
𠮷田 旬之介 筑波大学
海洋音響学会2026年度 研究発表会 講演論文集,pp.59-62
