最新の表彰

2022年度(令和4年)表彰

 海洋音響学会表彰規程に則り2022年度(令和4年)の表彰選考が行われ,次の諸氏が表彰されました.

1. 功績賞

 功績賞は,海洋音響学会の発展に大きな寄与があった方を選考し,表彰状楯を贈呈した.

片倉 影義

 片倉 影義氏は,長年に亘って水中音源,超音波映像法,音響信号処理,水中映像取得技術等の幅広い研究領域において多数の研究成果を挙げられた.また本学会運営においては,副会長,表彰委員会委員長,理事等の要職を歴任され,本学会の発展にも多大のご尽力を頂いた.さらに,本学会の名誉会員に就任後も,学会活動・研究活動にも積極的に参加され,後進の指導・育成にも熱心に取り組まれている.
 このように片倉氏の学術ならびに本学会に対する多年の活動業績は,我が国の海洋音響技術の発展に大きな功績を挙げられた.

2. 論文賞

 論文賞は,本会表彰規程に基づき,2020年10月から2022年9月までに発表された論文のうちから,海洋音響技術に関する優秀論文1編を選考して,表彰及び賞金を贈呈した.

Target Strength of Juvenile Salmon, Oncorhynchus keta, for Acoustic Monitoring

Kouichi SAWADA National Research Institute of Fisheries Engineering, Japan Fisheries Research and Education Agency, Japan
Tomohiko MATSUURA National Research Institute of Fisheries Engineering, Japan Fisheries Research and Education Agency, Japan
Yoshiaki FUKUDA Hokkaido University

注)受賞者は,本学会表彰規定第 14, 17 条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定
  また,受賞者の所属は論文掲載時の所属

海洋音響学会誌,Vol. 49, No. 2, pp. 46–67, 2022年4月

 サケ(Oncorhynchus keta)の稚魚は水面の近くを遊泳する習性がある.従ってこのようなサケを,ビームを水面近くから下に向ける通常のエコーサウンダー方式を用いて検出することは困難となる.このため,サケ稚魚を探知するためにはビームを下から水面に向かって送波するようにトランスデューサーを設置する必要がある.しかしながらこの場合には従来用いられているターゲットストレングス(TS)データをそのまま使うことは難しく,新たにサケの腹方向TSの特性を知ることが肝要となる.このような状況を解決するために,本論文では10年以上にわたる詳細な実験データを基に,TSの魚体長との関係,およびサケ稚魚の平均TSのバリエーションについて詳しく検討している.著者らは,サケ稚魚の鰾を伸縮性のある回転楕円体として扱い,4つの周波数(38, 70, 120, 200kHz)におけるTS推定を理論モデルによって行っている.またモデル計算に必要な鰾の形態学的パラメーターは,軟X線画像をデジタル化することによって得ている.さらに屋内の実験水槽におけるTS測定によって,異なる姿勢角分布での平均TSを計算している.その結果,標準体長の2乗で規準化された腹方向TSは,平均姿勢角を0度,標準偏差を20度とした場合,38kHzで-64.5dB, 70kHzで-65.2dB, 120kHzで-66.0dB, 200kHzで-66.6dBと推定している.また,送波周波数の減少と共に平均TSは増加するがTSの分散は減少することを見出している.さらに今回の結果から,稚魚サケの音響調査には,信号対雑音比が高く,姿勢角分布の変動の影響を受けにくい38kHzを使用することが有効であるとの結論を得ている.
 本論文で得られた成果は,海洋音響学における新たな計測手法を提供すると同時に,サケの資源保護のみならず,将来の地球規模での食料の安定供給に向けた手法ならびに資料として,海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.

3. 業績賞

 業績賞は,本会賛助会員である企業の技術者または技術者のグループが達成した海洋音響技術に関する優秀な技術開発業績を選考し,その貢献企業及び貢献者に表彰状・盾を贈呈した.

GPSの使えない水中で高精度に位置を計測する超音波測位システムの開発

吉原 到 あおみ建設株式会社
海老原 格 筑波大学
水谷 孝一 同上

 近年,建設作業の生産性と安全性を向上させるため,無人化施工技術の開発が進められている.特に自然環境の影響が厳しい水中では,建設機械を水上から遠隔操縦する技術の開発が進められており,その実現には,建設機械の位置情報を精度よく安定して把握することが不可欠である.陸上や海上では電波を用いたGPSが活用できるが,水中では電波が届きにくいため,深海探査などで活用されている超音波による測位システムを応用している.しかし,浅海域や港湾部などでは,海面・海底・構造物などで超音波が多重反射しやすく,既存の水中超音波測位システムでは,安定した測位を実現することが困難であった.そこで本研究グループは,測位に不要な反射波を排除する信号フィルタリング技術を適用した新しい水中超音波測位システム(水中版GPS)を開発した.このシステムを用いると,水深や構造物の有無による影響を受けず,安定かつ精度良く水中測位を計測できる.この水中GPSを用いることで,海洋工事現場における水中バックホウの位置を10cmオーダの精度で計測できることを既に実証している.また,本システムは,水中作業用建設機械の遠隔操縦技術に活用できるだけでなく,水中ドローンを利活用したインフラ点検の効率化や沿岸パトロール業務,水産分野への応用など,水中IoTの実現に貢献することが期待される.したがって,この業績は,海中建設技術の高効率化を実現すると同時に,今後の海洋音響学の発展にも寄与するものである.

4. 日本海洋工学会 JAMSTEC 中西賞

 本年度の,日本海洋工学会JAMSTEC中西賞は,海洋音響学会2021年度(令和3年度)研究発表会講演論文から本会表彰規定(特別賞)に基づき,日本海洋工学会会長名による表彰状・盾および賞金を贈呈した.

FDTDシミュレーションを用いたエコー復元によるコウモリの周回飛行中の注意推定

長谷川 雄大 同志社大学
手嶋 優風 同志社大学
森山 涼太 同志社大学
源田 祥子 同志社大学
河村 拓 同志社大学
土屋 隆生 同志社大学
飛龍 志津子 同志社大学

海洋音響学会 2022 年度 研究発表会 講演論文集, pp. 27–28

 コウモリは,超音波(以下パルス)を放射しその反響音であるエコーを聴取することにより,高度な空間把握を行う.コウモリの行動決定にはエコーが重要な要素であるが,コウモリが飛行中に聴取する微弱なエコーを計測することは技術的にも困難である.そこで本論文では,行動実験とFinite Difference Time Domain(FDTD)法を組み合わせることで,飛行中のコウモリが聴取するエコーの再現を行っている.またCF–FM音を用いるコウモリは,エコーの第2倍音定常周波数(以下CF2)が常に自身の聴覚感度の高い周波数帯域(参照周波数)となるように,パルスのCF2を飛行速度に対応して補償することが知られている(ドップラーシフト補償行動).ドップラー量は反射源とコウモリとの相対速度によって異なることから,コウモリが補償行動の対象としたターゲットがわかれば,コウモリの注意変化が推察可能となる.本論文ではコウモリを実験室内で周回飛行させ,その際に実測した超音波音声と飛行軌跡に移動音源/受音点の2次元FDTDシミュレーションを組み合わせ,ドップラー効果を含む飛行中のエコーを再現することで,コウモリの時空間的な注意変化を検討している.
本論文で得られた成果は,海洋音響技術で重要となる移動体に対する検知パルスの送波タイミングに
関して新たな知見を与えると考えられ,海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.