2019年度(令和元年)表彰

 海洋音響学会表彰規程に則り2019年度(令和元年)の表彰選考が行われ,次の諸氏が表彰された.なお,予定していた表彰式は新型コロナウイルスの感染が拡大している状況に鑑み,中止となった.

1. 論文賞

 論文賞(第44回)は,本会表彰規程(論文賞)に基づき,2017年10月から2019年9月までに発表された論文のうちから,海洋音響に関する優秀論文1編を選考して,表彰状楯及び賞金を贈呈した.

Proposal to Use Fish-Length to Wavelength Ratio Characteristics of Backscatter from Fish for Species Identification

古澤 昌彦 東京海洋大学
甘糟 和男 東京海洋大学

注)受賞者は,本学会表彰規定第14, 17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定.また,受賞者の所属は論文掲載時の所属.
海洋音響学会誌,Vol. 45, No. 4, pp. 183-196, 2018年10月

 音響技術を用いた魚種の特定手法としては,複数の音響周波数による後方散乱強度の周波数依存性を計測する手法が主流となっている.しかしながらこの手法は,鰾の有無で魚の種類を分別するような大分類の分別には有効であるが,音響特性が類似した魚種についての特定は難しい.そのため,より高精度な分別能を持つ手法が求められていた.
 本論文は,この目的を達成するために,魚長と波長の比(L/λ)に着目し,L/λと後方散乱強度の平均値との相対比較を判別パラメータとする新たな手法を提案している.最初に筆者らは,長形楕円形の散乱モデルによって生じる後方散乱強度のL/λ特性について理論的な検証を実施するとともに,複数の魚種に対してターゲットストレングスを考慮に入れた計算も行い,L/λを判別パラメータとして使う利点を示している.さらに,実測例を用いて提案手法の有効性を示すとともに,この手法を用いた魚長導出手順についても示している.
 本論文は,水産工学の分野において,魚長と波長の比(L/λ)をより高度な魚種判別のパラメータに用いようとする新たな提案であり,本論文で得られた成果は,海洋音響学の発展に寄与する優れた論文である.

2. 日本海洋工学会JAMSTEC中西賞

 本年度の,日本海洋工学会JAMSTEC中西賞は,海洋音響学会2019年度(令和元年度)研究発表会講演論文から本会表彰規定(特別賞)に基づき選考し,日本海洋工学会会長名による表彰状楯及び賞金を贈呈した.

海底下ゆっくりすべりを検知するためのGNSS-A観測の高度化と海洋学的応用

横田 裕輔 東京大学
石川 直史 海上保安庁

注)受賞者は,本学会表彰規定第14, 17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定.また,受賞者の所属は論文掲載時の所属.
海洋音響学会2019年度 研究発表会 講演論文集,pp. 49-52

 GNSS観測技術は陸域においてcm以下の精度での測地・測量能力を達成しているが,海底においてはGNSSと精密音響測位技術の結合手法であるGNSS-A観測技術が最も高い測地観測能力を有しており水平位置決定精度が2–3cmであり,この精度向上は重要な研究課題である.
 GNSS-A観測の最も重要な観測対象は,海溝型地震に関する地殻変動である.2000年以降,陸域の地震・測地観測の高度化によって,スロー地震・ゆっくりすべりという現象がプレート境界で多数発生していることが明らかになった.そこで筆者はGNSS-A観測の高度化により,陸域からは観測的内海底下の長期的ゆっくりすべりの検知を試みており,結果として海底下のゆっくりすべりを検知しうる能力(測定精度1–2cm)が得られるとともに,紀伊水道沖において初検知事例が得られた.
 観測能力を強化したGNSS-Aは時間変化する地殻変動現象という新しい観測対象を得た.加えて,海洋学的な応用の可能性も示されており,学術的な基盤観測網を目指す必要がある.そのうえで今後は,精度だけでなく,連続性や通信技術の開発によるリアルタイム性,長期安定性や多角的応用のためのデータフォーマットとデータシステムの構築といった観測網の基盤性を担保するための次世代の研究が必要となっている.
 本論文は,GNSS-A観測の高度化により,海底下のゆっくりすべりを検知しうる能力が得られたことを報告するものであり,今後のGNSS-A観測の高度化と海洋学的応用に向けた指針となり,海洋音響学の発展に寄与する優れた論文である.