FDTD法による音波伝搬解析

2003年度研究発表会優秀論文発表賞の内容の一部を掲載

神奈川大学 土屋健伸

研究の目的

 近年、海洋内の環境を観測する手段として海洋音響トモグラフィが注目を集めており、最近では特に浅い海を観測する要望が増えている。また海洋内を伝搬する音波の性質は水温や流れといった海洋内部構造に大きく影響を受ける。海洋資源調査や物体探索など今後より高精度な計測を行う上では精度の高い音波伝搬予測が必要となり、そのため多くの計算手法が開発されてきた。特に浅い海での音の伝搬は海面・海底の状態に大きく影響を受けているため、それらに適した伝搬解析を行える手法が必要となってくる。
 そこで我々は電磁界の分野で広く用いられている時間領域差分法(Finite Difference Time Domain Method : FDTD Method)を用いて浅海での音波伝搬の解析を行い、様々な条件の海域内の音波伝搬の特徴を明らかにすることを目的とする。

FDTD法

 FDTD法はK.S.Yeeによって提案された方法であるが、その計算量の多さから当初はあまり用いられていなかったようである。しかし、近年の爆発的なコンピュータの高速化・メモリの大容量化によって非常にポピュラーな方法になっている。数値解析手法としては陽解法を用いており、グリッド刻み等の様々な制限がつくが比較的簡単な差分式を用いた計算になっている。さらに任意の時間での瞬間的な音圧の空間分布や任意の点の受波波形、境界での反射波を含めた計算など数多くの利点が存在する。また瞬間的な音圧の空間分布をつなぎ合わせることで動画像を作成し音波伝搬を可視化できるため、教育ツールとして視覚的に訴えることのできる優れた方法であるとも言える。しかし多くの利点のあるFDTD法だが、コンピュータの発達した現在でも3次元解析を行うことは海洋の広大さを考えると手に余る問題である。そこで計算機を並列化させたPCクラスタを用いた方法が提案されており、各方面で実績を挙げている。

プログラムの例
解析モデルと解析結果

 本頁の解析モデルは「Pekeris」モデルと言われる伝搬距離方向に海洋環境(音響パラメータや海底深度)が変化しないRange-independentなモデルである。このモデルにおいて海底堆積層の音速密度を変化した場合の解析を行い、動画像によってその違いを示している。(モデルのパラメータは「解析モデル図の詳細」参照)音波は海面や海底を反射しながら伝搬していくがその反射波の振幅が海底堆積層のパラメータで変化することが動画像からも見ることができる。

解析モデル
吸収境界条件の違いによる反射パルス波(動画)

Murの1次吸収境界条件
MP4 format (276.99kB)

Murの2次吸収境界条件
MP4 format (259.73kB)

Higdonの1次吸収境界条件
MP4 format (283.79kB)

Higdonの2次吸収境界条件
MP4 format (122.23kB)